僕が空手を始めた日③

空手は暴力と根性というイメージしかなかった。バットを蹴り折ったり、滝に打たれて修行したり、そんなイメージ。

 

それに、始める前の僕には不安しかなかった。そらそうだ。運動なんてまともにできた試しがない。それが原因で学校でいじめられたし、周りに迷惑ばかりかけていたからだ。

 

 

空手=怖いものという認識と、そんな漠然とした不安から、楽しみや期待なんかより鬱屈さ圧倒的に優っていた。

 

 

それ以外のこともいっぱい考えていた。

 

 

学校みたいに笑われ者、嫌われ者になったりしないだろうか。また皆を失望させてしまうのではないのか。そもそも僕なんかが空手をやっていけるのか。

 

 

まぁ、そうこう色々とあって、当日の話になる。本当の意味で僕が空手を始めた日になる。

 

空手の道場のイメージはどうだろうか。日本式の家屋に畳敷きの道場をイメージするだろう。僕もそうだった。だが、現実は違う。

 

空手の道場というよりかはジムに近かった。プレハブ小屋で、床はマットが敷いてあって、大山倍達の写真が神棚の近くに飾られていた。サンドバッグが無骨に配置されていて、ロッカーや更衣室はない。

 

畳敷きで和風造りな室内をイメージしていただけに、面を喰らった。僕は天井でクルクル回る送風機を見ながら、ビビり倒していた。

 

先生はとにかくゴツかった。僕より身長が低いのに、僕より肩幅が3倍くらい大きい。声は軍人のように鋭く透った。色黒で目つきは鋭く目は大きい。40〜50代くらいで顔はモーフィアスか松平健に似ていた。

 

とりあえず挨拶をした。ドモリながらキョロキョロしながら。今考えると最悪な挨拶し、ただの失礼だった。

 

最初に型の稽古をした。脚も上がらなく、辿々しく、恥ずかしかった。帰りたい気持ちでいっぱいで泣きそうだった。凄く嫌だった思い出しかない。

 

次にミットを持って先輩のパンチを受けた。ミットに拳が当たる音だけで怖くて失神しそうだった。多分、うんこくらいはチビっていた。

 

僕の2つ年上の先輩で、背は僕よりも低く、朗らかでフランクな人だった。帯は黒帯で空手を7年していた。ニコニコしていたけど、そんな人でもこんな鋭い蹴りや突きを出すことに衝撃だったし、こうなりたいと言う憧れだった。

 

僕もミットに向かって、一生懸命に蹴りや突きを繰り出した。ただ、我武者羅に息を上げながら。

 

ミットを叩く瞬間が凄く好きだった。今までの鬱憤を晴らすこともできたし、自分がどれくらいの力を持っていたか知ることもできた。

 

何回も練習に行った。色んな技を学んだし、いっぱい稽古をした。

 

稽古を重ねるうち、日を追うごとに自分の叩く音が鋭くなり、構える側も必死の形相を浮かべた。最後には自分の蹴りでミットを構えている先輩を転倒させるほどになった。

 

 

そんな頃には不安なんか忘れて上達する楽しさを覚えていた。

 

 

そんな頃、空手の先生から組み手をしてみないかと言われることになる。相手はあの2つ歳上の先輩だった。僕はまた不安な感情になった。

 

手加減はせずにやってみぃ、という先生の言葉は最高に怖かった。いや、それ殺される奴やん。

 

必死に蹴り、必死に殴る。だけど、蹴りは膝でカットされ、突きはガードで下に落とされる。

 

痣もできるし痛かった。

 

我慢して殴る殴る蹴る。

 

 

そうするとガードが少し上がって、少しだけ腹部に隙間ができた。チャンスだった。

 

 

 

膝蹴りを腹に入れてやる。

 

 

膝を前に出した瞬間、僕のガードは下がった。膝蹴りは相手のガードに止められる。

 

 

その瞬間、鞭のように左足の脛が僕の顔目掛けて飛んできたのだ。

 

 

 

 

僕はピーター・アーツにはまだなれない。