僕が空手をはじめた日⑤ 僕が空手をやめた日

 

 

さて、このブログの読者の中にはこう思う者もいるだろう。

 

 

おまえの親父ひどくね?

 

 

たしかに僕の親父は酷い人と思うし大人気ない。

 

振り返れば、空手を始めるまで、親父は僕のことを認めてくれたことはなかった。勉強も運動も何にもかも。

 

できないことに対して、小馬鹿にされたり、「なぜ出来ないんだ」と怒鳴られたこともあった。

 

「いや、理由とかじゃなくて、できねぇから、できねぇんだよ」って心底では思っていた。だから、大体のことは年齢を経るまで出来なかった。

 

 

勉強、運動、自転車、縄跳び、女の子と話すこと、1人で買い物、靴紐を結ぶこと、ケーキを6等分に切ること。

 

 

なにもできやしない。

 

 

今考えるとそりゃ怒鳴られるわなぁと思う。

 

 

親父と僕は喧嘩したりしたこともあったし、長いこと口を聞かないこともあった。まぁ、僕よりも30歳近く歳上の人間のやる行動ではない。

 

ともかく、親父は厳しいというか偏屈で気難しい人だった。だから、僕はいじめが発覚してから親父とあまり口を聞かなかった。

 

だけど、空手の道場まで車で送り迎えをしてくれた。

 

まぁ、空手の道場まで送り迎えをする30分間もずっと黙ったままだった。

 

 

さてさて、話は切り替わる。

 

そこから時間が進んで、僕が空手をやめた日。意外と道場のみんなはあっさりしていた。じゃあな、元気でなって具合に。色んな先輩から激励をもらって、胴上げもしてもらった。

 

 

最後の日はそんな感じで終わった。

 

 

送り迎えの車の中で、親父はそんな最後の日に重い口を開いた。

 

 

 

「今までよーやったな」

 

 

 

また話は切り替わる。

 

さて、その後も僕は空手を続けたのか。

 

 

答えはノー。今の今まで空手はしていない。

 

 

僕は空手をやめた。高校に入る前、受験を名目で道場を退会した。僕はそれっきり空手もしないし道場にも顔を出していない。

 

高校は中学の友達が全くいないような遠方の私立校に通った。いじめられた過去をキッパリ忘れるために。空手をやめたのも同じような理由だった。

 

結局、空手ばかりに依存してしまい、逃げ道を作ってしまう。だから、キッパリと縁を切って、人生をやり直した。

 

帯も道着もプロテクターも大学に入る前に廃棄した。

 

古いブログ、10年以上も前の道場ブログの写真だけが、僕があの瞬間、空手をして生きていた証明になっている。

 

 

過去を捨てて違う人間になるために。そして、僕は違う人間になれた。

 

 

 

のかも知れない。

 

 

実際はどうかわからない。

 

 

このブログを通じて誰かに勇気を与えたいわけでもないし、僕をいじめた人間よりいい人生を送ってやろうとも思わない。

 

そんなの不可能だし、絶対になれないし、できないと思う。

 

これは、ただの個人的な昔の話。

 

死体のように生きていた数ヶ月、空手をしていた2年間、死ぬ気で戦った5分間、上段蹴りを繰り出した一瞬。

 

 

僕の人生が変わったのは、紛れもなく、あの瞬間だった。

 

 

あの瞬間、僕は何かになれた。

 

 

昔、僕はピーター・アーツになりたかった。

 

 

ピーター・アーツになれなかったし、過去からはやっぱり逃げれないかも知れない。

 

 

だけど、僕はマヌケじゃない何かになれたと思う。